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文鳥日誌 birdwhite.exblog.jp

とびとびにっき


by Bird_W

リリカル

地方では街の中心と駅は少しずれている。まず道がそして鉄道が発達したから。そんなことも東京を離れるまで知らなかった。
フランスでも事情は同じで、アヴィニヨンの駅からバスステーションまでトランクを引きずって。石畳に滑車がかえって大きな音をたてる。そんなことも想定外で。
時刻表なんてあってなきがごとき。あってもそんなにちゃんとこないしね。大体なんで私こんなとこにいるわけよと思いながら、とにかく待っていた。空白ばかりの時刻表。
ほんとに来るのかしら。

そんな背景だから、聞こえてきたんだろう。
少し離れた公衆電話で話す彼の声。

「ね、ヨーグルトを食べなよ、ね、ヨーグルトがいいよ、だからね、ヨーグルトがいいんだ」

アラブの方から出稼ぎにきたであろう青年は、受話器に向かって話しかける。
その相手は誰だろう、恋人か母親か、または…

Yogurtはフランス語で「ヤーウー」という。

ヤーウー。


バスが来るかどうか不安だしいらいらのまっただ中で。
地球は自転するのであって、特に前向きではなさそうだった。
明日は薔薇色であるかもしれないし、青ざめているかもしれない。
そのときは私は疲れちゃってて多分、土気色していた筈。

たとえば「ヤーウー」が、そんな世界を切り取ってくれる。
そんな音があったの。
あ、音色がね、あったね。
あ、そういう言葉があったよって。

意味は重要じゃない。
響きとか手触りとか味とかさ、そのときに最も必要なものが多く含まれている。
相手じゃないよ、自分のだよ。
そこが一番大事。
ひとは自分が聞きたい言葉を探している。

そういうものをリリカルとよんで私は大事にしてる。
リリカルって意味は違うかもしれないが、まあいいんだ。
きっかけ、ともいえるかな。

そのときはヤーウーだったんだ。
by Bird_W | 2013-09-24 21:56 | Trackback | Comments(0)